『ありす、宇宙までも』考察|なぜ“言葉を持たない少女”が宇宙を目指すのか?

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売野 機子:「ありす、宇宙までも」より

目次

宇宙が象徴するものとは?

引用:No01「ありす、誕生」より

『ありす、宇宙までも』というタイトルに、まずグッときた人も多いはず。
“宇宙”って、それだけで何かロマンチックで、壮大で、手の届かないものを思わせる。

でも、この作品における“宇宙”はただの背景じゃない。

作品全体のメタファーとして、重要な意味を担ってるんです。


“果てしない場所”=夢のメタファー

作中でありすは、「日本人初の女性宇宙飛行士のコマンダーになる」という
とんでもなく大きな夢を語ります。

普通の小学生なら、そんな壮大な夢は口にするだけでも勇気がいるし、
そもそも「どうせ無理」って思ってしまうことの方が多い。

でも、宇宙って“遠くて届きそうにないもの”だからこそ、

「そこを目指す」と言ったときに、
ありすの意志の強さと決意の深さがグッと伝わってくる。

つまり、「宇宙」はありすの未来そのもののメタファー


どれだけ遠くても、見えなくても、
「行ってみたい」と願った瞬間に、それは夢になる。


宇宙は孤独?それとも希望?

もうひとつの視点は、宇宙=“孤独”の象徴としての顔。
宇宙空間って、無音で、暗くて、誰とも会話できない場所。

でも、その静けさや孤独って、
ありすが感じている「言葉が通じない日常」に重なる部分がある。

ありすはずっと「地上にいるのに、誰ともつながれない」状態だった。
だからこそ、誰よりも“宇宙に惹かれていた”のかもしれない。

だけど面白いのは、彼女が宇宙に惹かれながらも、
ちゃんと「地上で誰かとつながる」こともあきらめていないってこと。

それを象徴してるのが、犬星くんの存在。

彼という“重力”があったからこそ、ありすは宙に浮かびっぱなしにならずに、
ちゃんと地に足をつけて、夢を目指せるようになった

パパぴよ

だからこの作品での“宇宙”は、
ただ孤独を映すものじゃなくて、孤独を超えていく場所=希望なんだ。

言葉を失った少女というキャラクター設定

『ありす、宇宙までも』を語るうえで、
主人公・朝日田ありすの“言葉がうまく話せない”という設定は、
ただの個性ではなく、この作品の核となるテーマです。


セミリンガルのリアルな描写と葛藤

引用:売野 機子:「ありす、宇宙までも」  第1話「ありす、誕生」より

ありすは、日本語と英語のバイリンガル教育を受けていたけど、
両親の死をきっかけに、その両方が中途半端になってしまった状態——

いわゆるセミリンガルと呼ばれる状態にあります。

この設定、実はめちゃくちゃリアルで、

「二つの言語を覚える過程で、どちらも定着しない」という
現実に起こりうる困難なんです。

そして作品の中でありすは、自分の状態を“壊れてる”と感じたり、
「ちゃんと喋れない=ちゃんと人と繋がれない」と思い込んでしまう。

この「伝えたいのに伝えられない」もどかしさは、

読者にもグサッと刺さるポイント。

現代って、言葉にできない気持ちが多すぎる世界だからこそ、
ありすの姿はどこか、自分自身を重ねたくなる存在なんだよね。


言葉を知ることで「世界の解像度」が上がるということ

犬星くんが、ありすに言葉や知識を教えていく中で、
少しずつ彼女の世界の“ピント”が合っていくような描写があるんですが——
これ、すごく美しい演出です。


引用:第4話「ドアの向こう側」より

ありすは、新しい言葉を覚えることで、

「見えなかったものが見えるようになる」

「理解できなかった世界が、だんだん輪郭を持つようになる」

つまり、言葉=世界を認識する手段

「言葉を知ることで、世界の解像度が上がっていく」
という編集部のコメントも本当に的確で、

まさにこの作品の深みを表してる言葉だと思います。

天才×普通の子=バディの共鳴構造

引用:売野 機子:「ありす、宇宙までも」  第1話「ありす、誕生」より

物語をグッと熱くしているのが、
言葉を失った少女・ありすと、天才少年・犬星類のバディ関係

この二人、ただの「教える・教わる」じゃなくて、
お互いの欠けた部分を補い合う関係なんですよ。


犬星くんの孤独と優しさ

引用:売野 機子:「ありす、宇宙までも」  第1話「ありす、誕生」より

犬星類は、学校内で“天才”として有名だけど、
性格はちょっとトゲトゲしていて、クラスで浮いている存在。

自分の知識や能力に自信があるぶん、他人に対して冷たいところもある。
でも、ありすにだけは違った。

彼女の“言葉の不自由さ”にすぐ気づいて、
自分から「教えてあげたい」と思った。

これって、犬星くんにとってはじめての「感情の共有」だったのかも。
ありすに教えることで、彼もまた変わっていくんだよね。

だからこそ、ただの「天才が導く話」ではなくて、
「ありすが犬星を変えていく話」でもある


二人の“欠けた部分”が支え合う関係性

ありすには「言葉が足りない」。

犬星には「他人への共感が足りない」。

そんな二人が出会って、

互いの“足りなかったもの”を補い合うように、

ゆっくりと関係性を育てていく。


これがもう、尊くてたまらん。
言葉を教えながら、犬星はありすの“心”を知るようになり、
ありすは犬星の支えで、“声を持つ”ようになる。

どちらかが導く関係じゃなくて、二人で一つの未来を作っていく

その構図が、読者の心に刺さらないわけがない!

「学ぶこと」が持つ力とは?

この作品の中で繰り返し描かれているのが、
「学ぶ」という行為が、人生そのものを変えていくということ。

勉強=テストのため、じゃない。
もっと深くて、もっと尊い。
“知ること”が、“生きる力”に直結していく——そんなテーマが強く流れています。

点数よりも“世界の見え方”が変わる

引用:第4話「ドアの向こう側」より

ありすにとって、最初の学びは「言葉を取り戻すこと」。
でも物語が進むにつれて、それだけじゃなくなる。

犬星から宇宙の話を聞いたり、

ロケットの仕組みを教えてもらったり、

ワークショップで専門家に触れたりする中で、
ありすの“世界の見え方”がどんどん変わっていく。

たとえば、

「空を見上げるだけで、そこに“夢”を重ねられるようになる」って、
それだけで人生が明るくなる気がしない?

学ぶことで、世界の彩度が上がる。

ぼんやりしていた景色が、くっきりしてくる。

この描き方が本当に丁寧で、読者自身も「学ぶって面白い」と感じさせてくれるんです。

知ること=自分を取り戻すこと

引用:売野 機子:「ありす、宇宙までも」 No03「初めての色」より

ありすは、最初「わたしは壊れてる」と感じていた。
でも、犬星くんと出会って、言葉を学んで、宇宙を知って、

少しずつ“自分を肯定する言葉”を持てるようになるんです。

「学ぶこと=生きること」

「知ること=自分を好きになること」

そんなメッセージが、この作品にはそっと込められています。

『ありす、宇宙までも』が刺さる理由

この作品がこれだけ多くの読者に愛されているのは、
ただ「感動するから」とか「絵が綺麗だから」じゃない。

パパぴよ

現代を生きる私たちの“心の奥”にあるものを、静かに揺さぶってくるからかも

現代の若者が共感する“生きづらさ”と希望

ありすのように「うまく話せない」「言葉が通じない」と感じる瞬間は、
実は多くの人が経験しているもの。

SNSが主流になって「言葉」が常に目に見える今の時代、
伝え方ひとつで誤解されたり、

“上手く話せない自分”を責めてしまったり——

そんなコミュニケーションへの不安や孤独を抱える人は、年齢問わず本当に多い。

ありすの姿は、そんな生きづらさを持つすべての人にとって、
「それでも前に進める」って教えてくれる存在なんですよね。


読み終えた後に残る、静かな熱

この作品のすごいところは、読後にドーンと感情が爆発するというより、
じんわりと余韻が残るところ。


「あのセリフ、もう一度読みたいな」

「なんであんなに涙が出たんだろう」

——そんなふうに、ふとした瞬間に思い返してしまう“静かな熱”がある。

特にありすが夢を語るシーン、
犬星がありすの名前を呼ぶシーンは、

読むたびに体温がちょっと上がるような、胸がふるえるような

まとめ|宇宙は遠い。でも、手を伸ばしていいんだ

『ありす、宇宙までも』は、
遠くて手の届かないはずの“宇宙”を、
たしかな足取りで目指す一人の少女の物語。

だけど本当に描かれているのは、


誰かと通じ合うことのむずかしさと尊さ
学ぶことの喜び

そして“自分を信じること”のはじまり。

言葉が出てこない日、
うまく人と関われない日、
「自分なんて…」と思ってしまう日。

そんな時にこの作品を読むと、
静かに背中を押してくれる。

「あなたは、ありすと同じように、まだ知らないだけ」
「知ることは、あなたを変えることができる」

そう語りかけてくれるような作品です。


パパぴよ

空は、こんなに広かったんだ。


そう思える読書体験を、ぜひあなたにも。

引用:売野 機子:「ありす、宇宙までも」  第1話「ありす、誕生」より
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