※アイキャッチ画像引用:山口 つばさ/ブルーピリオド/講談社
コミックDAYS
『ブルーピリオド』──美術という一見地味なテーマなのに、どうしてこんなに熱くて、切なくて、心を震わせてくるんだろう。

「努力に泣ける漫画」って、こういう作品のことを言うのかな、と思いました。
『ブルーピリオド』は、美術というニッチなテーマでありながら、
まったくその世界を知らない読者にも“本気で何かに向き合うこと”の熱さをまっすぐ届けてくる。
主人公・矢口八虎は、成績も良くて人当たりも良い、いわゆる器用なタイプ。
でもどこか空っぽで、何かに心から打ち込んだ経験がなかった。
そんな八虎が、ある日“描く”という行為と出会い、
まっすぐに、それこそ命を削るような勢いで美術にのめり込んでいく。
八虎の情熱は、決して叫ばない。
だけど燃えてる。その青い炎が、静かに心をヒリヒリさせてくるのです。

この作品に触れると、「自分も何かやりたい」と思わずにはいられない。
目次
あらすじ1
【青の風景が残った朝:八虎が“描いてみた”瞬間】
眠たい目で見上げた渋谷の早朝、空気は冷たくて、街はまだ青かった。
その光景が、妙に心に残った。


次の美術の授業で、課題は「自由に描いていい」。
八虎はふと、そのとき見た“青い渋谷”を絵にしてみようと思った。
絵なんてろくに描いたことがない。道具の使い方もよくわからない。
それでも、「あの青を描きたい」という気持ちだけで、手を動かした。


時間いっぱい粘って描き上げた一枚の絵。
うまいとか下手とかじゃない、八虎なりの“あの朝”が詰まった青。
そして、友達がその絵を見て、ポツリとひと言。
「もしかして、早朝か? これ」
その瞬間、八虎は泣いていた。
思っていた以上に、その一言がうれしかった。
自分が感じた何かが、ちゃんと人に伝わったことが、心に響いた。


山口つばさ ブルーピリオド 第1話より引用
この場面は、まだ“美大を目指そう”なんて言葉すら出てこない。
でも、確かにここが始まりだった。
八虎はこのとき初めて、「描くことって、すごいかも」と思った。
この静かな気づきが、彼の人生を大きく動かしていく。
あらすじ2
【「美術って、面白いですよ」──先生の何気ない一言が灯すもの】
「絵って、意外といいかも」
あの青を描いてから、八虎の中に小さな火がついた。
でも、まだ“本気”には踏み切れない。
自分なんかが絵をやるなんて…って、どこかで引いてる気持ちもあった。
そんな八虎に、声をかけたのが、美術の先生・佐伯昌子。
八虎は問いかける。
「絵って趣味じゃダメですか?」
「食べていける保証がないなら美大に行くメリットってなんですか?」
佐伯先生は、それらに対して感情的になることなく、丁寧に、現実的に答えていく。
でも、最後にふっと笑って、こう言う。
好きなことは趣味でいい、これは大人の発想だと。
人生の一番好きなことにウエイトを置くのは普通じゃないか。
それは押しつけでもアドバイスでもなくて、
ただ、穏やかに八虎の存在を肯定するようなひと言だった。
この言葉に、八虎の中で何かがカチッと音を立てて動き出す。


誰にも見透かされていないと思っていた“心の揺れ”に、
そっと手を添えられたような感覚。
八虎はこの言葉を境に、「美術を本気でやってみたい」と思い始める。
大げさな転機じゃない。
でも、静かに火が大きくなるような、そんな瞬間だった。



『ブルーピリオド』って、こういう“さりげない一言”がちゃんと強い。
言葉の力で人を動かす、そういう場面がすごく丁寧に描かれてる。
そして八虎は、ついに次のステージに踏み出す。
――美術予備校へ。そこで待っていたのは、さらなる現実だった
あらすじ3
【才能の壁にぶち当たる:予備校で見た“本物”たち】
美術を本気でやってみたい。そう思った八虎が選んだ次の一歩は、美術予備校だった。
東京藝術大学――通称「藝大」。その最難関に挑む生徒が集う場所。
八虎は、ここで初めて知る。
“自分は、本当に何も知らなかった”ってことを。
まわりは絵を描き慣れた猛者ばかり。
筆の動きが速い。構図のとり方がうまい。何より、作品に個性がある。
八虎は思う。
「俺さあ…、ただの人なんだな……」
自分より年下の受験生にも圧倒され、心が折れかける。
でも、ここで諦めないのが八虎だった。
家に帰っても、夜遅くまでスケッチを続ける。
手が止まりそうになっても、とにかく描く。考える。描く。失敗する。描く。
このあたり、読んでて本当にしんどい。
でも、だからこそ応援したくなる。


八虎は天才じゃない。
でも、自分にしかできない表現があるはずだと信じて、前に進もうとする。
予備校の講師に何度もダメ出しされながら、
それでもめげずにキャンバスに向かう八虎の姿に、心を打たれる。
『ブルーピリオド』は、ここから本格的に“努力の物語”になっていく。
そして読者は思うはず。
——この子、どこまで行けるんだろう?
いや、行ってほしい。どうか、辿り着いてほしいって。
【この漫画が泣けるのは、努力がちゃんと報われていくから】


八虎は、最初から特別な才能があったわけじゃない。
予備校では下の方の評価で見られることも多かったし、何度も何度も壁にぶつかった。
だけど彼は、描き続けた。
逃げなかった。描いて、失敗して、また描いて。
それでも「自分なりの絵」を、諦めなかった。
そしてある日、ふとした瞬間にその努力が“届く”。
評価される。言葉をかけられる。
誰かの心を動かす。
それは大きな合格でも、劇的な成功でもないかもしれない。
でも、確かに「描いてきたものが、誰かに届いた」と感じられる瞬間。



その“たった一言”の重さが、涙を誘うんだ。
この漫画の泣けるポイントは、「うまくいったから泣ける」じゃなくて、
「報われるまでのプロセスを、ちゃんと見てきたからこそ泣ける」ところにある。
派手な奇跡は起きない。
でも、あきらめずに積み重ねてきたものには、ちゃんと意味がある。
読んでいると、自分の人生に置き換えてしまう。



「自分も、何かちゃんと向き合ってみようかな」
そう思わせてくれる力が、この作品にはある。
⸻
【個性がぶつかる“人間ドラマ”──八虎の周りの人たちも最高に熱い】
『ブルーピリオド』の良さは、主人公・八虎だけじゃない。
彼のまわりにいる人たち――それぞれがちゃんと“本気”で、ちゃんと悩んでて、めちゃくちゃ魅力的。



美術の道って、一人で黙々と進むイメージがあるけど、
この漫画はむしろ、人間ドラマのぶつかり合いでできてるって感じがする。
⸻
◆ ユカちゃん(鮎川龍二)


美しくて、強くて、でもどこか儚い。
男として生まれたけど、女の子の制服を着る。
周囲からの視線や家庭との確執に苦しみながら、それでも「自分らしくいたい」と願い続ける存在。
八虎にとってユカちゃんは、美術部に引き込んでくれた“最初の理解者”でもある。
自由でまっすぐなようで、心には複雑な痛みを抱えている。
そのギャップがとてもリアルで、そして胸を打つ。
⸻
◆ 世田介(たかはし よたすけ)


山口つばさ ブルーピリオド 第4話より引用
いわゆる“天才”ポジション。
感情表現が苦手で、周囲と壁をつくってしまうタイプだけど、絵には凄まじい情熱がこもっている。
八虎にとって、最も意識するライバルの一人。
ぶつかることも多いけど、お互いに影響を与え合って成長していく関係性がとにかく熱い。
⸻
◆ 橋田悠


山口つばさ ブルーピリオド 第6話より引用
ザ・美術オタク、でもめちゃくちゃ優秀。
美術の知識量がすごくて、言葉にも説得力がある。
八虎のことをよく見ていて、ほどよく突き放しつつ支えてくれる“良い先輩”感が最高。
こういう「賢くて偏ってて、でもあったかい」キャラがいると、作品の安心感がグッと増す。
⸻
◆ 桑名マキ


山口つばさ ブルーピリオド 第7話より引用
明るく、場を和ませてくれるムードメーカー。
でもその裏には「芸大一家であるがゆえのプレッシャー」や、「姉の影」が常につきまとっている。
才能があるからこそ苦しむこともあるんだと、彼女のエピソードで気づかされる。
悩みながらも前を向く彼女の強さに、励まされる読者はきっと多い。
⸻
八虎は彼らに刺激され、影響され、ときには嫉妬もして、でもちゃんと向き合っていく。
そうやって、“自分だけの絵”を探し続けていく。
周りの人たちがそれぞれの信念を持って“描いている”からこそ、
八虎の物語がより強く、リアルに感じられる。



『ブルーピリオド』は、孤独な闘いの物語じゃない。
“ひとりひとりの情熱”が交差する群像劇でもあるんだ。
総括
【『ブルーピリオド』は、自分の“好き”を信じたくなる漫画】


『ブルーピリオド』を読んで感じたのは、
「好きを突き詰めるのって、勇気がいることなんだな」ってことだった。
なんとなく生きていた八虎が、
“あの青”をきっかけに「絵を描く」ことを選び、
自分の手で道を切り拓いていく姿。
最初は空っぽだったはずの彼が、
悩んで、落ち込んで、努力して、それでも前に進んでいく。
その過程を、読者はずっと隣で見ているから、
八虎がほんの少しでも報われたとき、自分のことのようにうれしくなる。
そして思う。
「自分にも、こんなふうに夢中になれる何か、出会いたい!!」って。
この作品が教えてくれるのは、
“好き”は、才能よりも先にあるってこと。
そして、“好き”を信じて向き合った先にこそ、本当の自分がいるということ。
『ブルーピリオド』は、
自分の中の“やってみたかった気持ち”に、そっと火をつけてくれる漫画。
気になったなら、まずは1巻だけでも読んでみてください。
静かに燃える青の情熱が、あなたの心にも、きっと届くはずだから。
⸻
“ひりつく青の情熱”を音で体感したいなら──このMVをぜひ
『ブルーピリオド』の世界観にどっぷり浸りたい人におすすめしたいのが、
YOASOBIとアルフォートのコラボで制作された、こちらのアニメMV。
原作の繊細なタッチを活かした映像と、YOASOBIの楽曲がリンクして、
まさに「静かに燃える青の情熱」を音と絵で感じられる作品になっています。
漫画を読んだあとに観ると、絶対もっと好きになる。