
「春のキャンペーン、軽トラ詰め放題2万円ぽっきり!」
会社のポストに入っていた廃品回収業者のチラシに、思わず手が止まった。
デザインは整っていて、色味も上品。
なにより「軽トラに乗ればOK!」「事前見積もり無料、追加料金なし!」の文言が躍る。
これまでにも不用品回収を考えたことはあったけれど、
ネット検索で出てくるのは「◯◯回収くん」「便利屋△△」みたいな個人業者ばかり。
法人っぽいし、チラシもちゃんとしてるし、季節感バッチリの「春のキャンペーン」に妙な安心感もある。
よくある“白黒コピー用紙に文字だけ”の謎チラシでもなければ、
“元気あふれる若いお兄さんたちが、なぜか機械体操の決めポーズでキャッキャしてる写真付き”でもない。
ましてや、「ベテラン感はあるけど、写真からほんのり“ちょいヤカラ味”が漂う」パターンでもない。
なんというか、ちゃんと組織として大丈夫そうだった。
その時点で、私の中ではかなり好印象だったのだ。
思い返せば、事務所の隅には古いパソコンやテレビ、小さな家電、来客用のコップ類がたまっていた。
可燃ごみはコツコツ出せばいいとしても、粗大ごみや家電類となると、都内・近郊ではとにかく面倒。
都心では粗大ゴミを出すだけで、
- 事前申し込み(最短で1ヶ月待ち)
- サイズ測定と申請
- コンビニで処理券購入
- 指定日に処理券を貼ってゴミ出し
という工程を踏まなければならない。
後回し癖のある私にとっては、最初の「サイズ測る」の時点で詰んでいた。
「2万円でまとめて持ってってくれるなら、むしろありがたすぎるのでは…?」
そんな期待とともに、私は迷わずチラシに書かれた番号へと電話をかけた。

第1章:期待しかなかった、当日の朝。
廃品回収をお願いするその日。
私は朝からゴミ袋を手に動き回っていた。
「このPC、もう立ち上がらないけどデータ残ってるのちょっと怖いな〜」
「このプリンター、インク詰まってるけど…もしかしたらまだ使える?」
「このコップ…誰が買ったのかわからないやつ、めちゃくちゃあるじゃん…!」
会社の片隅に、どんどん山ができていく。
テンションとしてはちょっとした“断捨離ハイ”。
でもよく考えたら、この“何でもアリ”なゴミ山を、プロの業者さんが2万円で引き受けてくれるって…ほんとに?と、少し不安にもなった。
でもね、チラシにはこう書かれていたの。
「軽トラに乗ればOK!」
「詰め放題です!追加費用なし!」
……だから、信じたかった。
だって、もう出しちゃったし。
ゴミ山ができちゃったし。

ここで「やっぱやめとこうかな〜」って業者を変えるのは、もうしんどすぎる。
結果的にこの日の私は、「見積もり次第で決めよう」というより、
「もう、きてくれた人でいいや」モードになっていた。
自分で自分を逃げ場のない状態に追い込む、ある種の“依頼あるある”である。
第2章:実際来てみたら…見積もりはまさかの「1トンパック4万円+蛍光灯3千円」
そして、約束の時間。
爽やかな笑顔の作業員さんが現れ、手際よくオフィス一角の山をチェックし始める。
「あ〜、これとこれで…うん、軽トラパックじゃちょっと厳しいですね」
とサラッと一言。
あれ…軽トラって、そんな小さかった?
その後、出てきた見積もりはこうだった。
■1トンパック:40,000円
■蛍光灯(10本):3,000円
■合計:43,000円
え。まさかの、倍以上。
チラシの「2万円ぽっきり」とは一体…?
しかも内訳がまたざっくりしてて、
・1トンパック × 1
・蛍光灯10本
・植物(?)
——最後の「植物」って、なに?誰かサボテンとか混ぜた?

今回まとめて出したのは、
- 古いパソコンとプリンターがそれぞれ2台くらい
- 小さめのテレビ
- ティファールの電気ポットなどの小型家電数点
- 来客用のガラスコップやマグカップ類
- 蛍光灯10本
- ……あと謎の植物
「軽トラのポテンシャルそんなもんだった?」という気持ちと、「まぁそんなもんかもな…」という気持ちが交錯する。
そもそも私は、“せめて3万円くらい”で済むだろうと、若干の現実的想定はしていた。
だから、「うわっボラれた!」という感覚よりも、
「ガストでランチだって1000円するこのご時世に、車で来てゴミ運んで捨ててくれて、2万円で済むわけないよね……」
という妙な現実感が押し寄せてきて、
もはや悟りの境地に入りかけていた。
第3章:過去にもあった「買取のはずが処分費請求」事件

実は私、過去にも不用品の処分でぬか喜びからの絶望を味わったことがある。
それは数年前。
引っ越しのタイミングで、比較的新しい家電類をまとめて処分したかった私は、某リサイクルショップに電話をかけた。
「3年以内のエアコンとガスコンロ、あとハロゲンヒーターがあるんですが、買い取りって可能ですか?」
電話口のアルバイトらしき女の子は丁寧に型番を聞いてくれて、
「あ、はい。そちらでしたら買い取りできますよー!」
と、実に気持ちのいい返答。
私は「やった、ちょっとお小遣いになるかも」と浮かれ気分で回収日を決めた。
——が、当日。
作業員さんがやってきて現物をチェックしながら、こう切り出した。
「あー、これはですね、リサイクル家電の対象になるんで…処分費がかかるんですよ」
はい出た、処分費。
夢から現実へのダイブはいつも唐突。
「えっ、電話で“買い取れる”って言ってませんでした?」
「ええ…でも、持ち帰っても正直売れないですし、回収コストがですね…」
と、やんわり押し切られ、
結果的に6,000円ほどの処分費を払うことに。
当初の予定では“お金もらえる予定”だったのに、
蓋を開けたら“お金払うことに”。
「あれ?私って、何しに来てもらったんだっけ…?」
という軽い脱力感だけが残った。
しかも当時はコロナ禍。
わざわざ人に来てもらうだけでも気を遣う時期だったのに、
「じゃあ、やっぱり結構です」と断って、
手放すつもりだった家電をもう一度家の中に迎え直すのも、それはそれで気まずかった。
なんというか、損した気持ちと、ちょっと申し訳ない気持ちと、戻ってきた家電の気まずい存在感が、心にじんわり残った。
不用品回収において、「事前にOKだった」は、あくまで“その時点での話”。
そして何より——
現場でのやり取りは、彼らの圧倒的なスピード感の中で進んでいく。
口頭での説明はテンポが良すぎて、
事前に電話で「買取OK」と聞いていたはずなのに、
現場ではその話がモゴモゴと曖昧に濁されて、気づけば流されている。
「あれ…?これ、突っ込むべきだったやつ……?」
そう思ったときにはもう、ゴミも話も、トラックに積まれていた。

第4章:結論。不用品回収で“最初の価格”になることは、ほぼない
「軽トラ詰め放題2万円」
「買取OKと聞いていたのに処分費」
「品番伝えて確認したのに、当日“無理”と言われる」
——これまでの体験を経て、私はある結論にたどり着いた。
不用品回収において、“最初に聞いた価格”で終わることは、ほぼない…のか?と。
けれど、これは決して私だけの話ではない。
不用品回収業者の口コミやレビューを見ても、似たような話はたくさん出てくる。
たとえばこんなレビュー——
「軽トラ詰め放題2万円のつもりが、3.8万円になりました。でも対応が丁寧で、スムーズに作業してくれて結果的には満足です」
「見積もりより高くなりましたが、理由をきちんと説明してくれたので納得しました」
「金額は思っていたより高くなりましたが、他と比べたらこんなものかなと」
そう。
“最初の金額では済まなかったけど、結果的には納得”という声が意外と多い。
これは裏を返せば、ユーザーの多くが
「不用品処分って、相場が分かりにくい」
「もう運び出してもらえるだけでありがたい」
と感じていることの表れでもある。
実際、今回私が依頼した業者も、
- 押し売りはしてこなかったし
- 作業もテキパキしていて
- ゴミの山が一気に片付いたのは純粋にありがたかった
だから、金額が2万円から4.3万円に跳ね上がっても、
「まぁ…こんなもんか」
と、どこか納得している自分がいた。
そして何より、今回は会社の不用品。
経費で処理できるという“心のクッション”も大きかった。
今では、「1点ずつならメルカリ」「数が多いなら回収業者」と、
用途に合わせて使い分けるようになったし、
ジモティーのように“取りに来てもらえる系”も便利だなと感じている。
ただし、それでも気になるのは…
「本当に2万円ぽっきりで済んだ人、いるの?」
これはもはや都市伝説レベルの存在になりつつある。(私の中でだけ)

第5章:昔は無料だったのに…回収業界の今昔物語

子どもの頃、街中でこんな声を聞いたことがある人も多いはずだ。
「テレビ〜洗濯機〜、不要になった家電、なんでも無料で回収しま〜す!」
スピーカーを積んだ軽トラが住宅街を巡回し、
おじさんが笑顔で「これもいいよ〜!」と軽々テレビを積んでいく。
あの“無料回収文化”は、確かに存在していた。
だけど、2025年の今。
そんな業者、見かけたことあるだろうか?
答えは、ほぼ“NO”。
今では「無料回収」をうたう業者に対して、
「えっ、怪しくない…?」
と警戒するのがむしろ当たり前になっている。
その背景には、いくつかの大きなルール変更と社会問題がある。
■ 2001年、家電リサイクル法の施行

これを境に、テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンといった家電4品目は、必ず“リサイクル料を払って処分する”ことが義務化された。
それまでは業者が好きに処分できたが、
以降は「家電1台につき1,000〜3,000円」の料金が必要になり、
無料で回収していた業者たちも徐々に撤退。
■ 不法投棄・違法輸出が社会問題に
無料で回収した家電の多くが、海外(特にアジア諸国)へ違法輸出されるケースが増加。
現地で環境汚染や労働問題に発展し、日本国内でも大きな問題に。
その影響で、「回収→即輸出」のビジネスモデルは行政から強く取り締まられるようになった。
■ スクラップ価格の低下
かつては「金属の価値が高く、回収しただけで利益になる」時代もあったが、
今では鉄や銅の価格が下落し、無料で回収するだけでは赤字になるように。
現在でも「無料回収」とうたう業者はいるが、
実際には現場でこんなことを言われる。
「これは無料だけど、これはリサイクル料かかります」
「これは重いので運び出し料が…」
「ん〜、全部で1万2千円になりますね」
つまり、「無料」は“一部だけ”、
それ以外は“盛られていくパターン”が多い。
そう考えると、今回のように最初からちゃんと説明があって、
作業もスムーズで、変な押し売りもなかった業者って、
ある意味では「今どきの優良業者」だったのかもしれない。
昔と違って、「無料で持ってってくれる人」はいない。
むしろ今は、“安心してお金を払える業者”を見つけるほうが難しい。
第6章:業界の裏話。4万円でどれだけ儲かるのか?

今回、私が実際に支払った金額は43,000円。
この金額、果たして業者にとって「高額利益」なのか?
それとも「ギリギリ赤字回避」程度のものなのか?
色々調べてみた結果が、なかなかに興味深い。
■ 実は“2〜3万円の利益”が出るのが普通
不用品回収業者のざっくりな経費内訳はこんな感じ。
- 作業員の人件費(1〜2人):8,000〜15,000円
- 処分費用(粗大ゴミや家電):5,000〜12,000円
- 車両費・ガソリン代など:2,000〜3,000円
- チラシ広告や仲介サイト利用料など:1,000〜2,000円
つまり、トータルの経費は約18,000〜25,000円。
差し引いて18,000〜25,000円程度の利益が残る仕組みになっている。
これ、地味に堅実ビジネス。
■ 回収業者は“宝探しのプロ”でもある

ただ、単純な“回収費の利益”だけじゃないのがこの業界の面白いところ。
たとえば、
- 古いけどまだ動くPCや家電
- 金属部分が多い製品(銅線・アルミなど)
- 骨董系の掘り出し物
こういったものは、自社倉庫で仕分けしてリサイクル・転売していく。
ヤフオク・メルカリに出品する業者もいれば、
金属スクラップとして専門業者に売るケースも。
つまり、ゴミの中に“商品”を見つけるのが彼らの腕の見せどころ。

■ 安く見えても、きっちり設計された料金体系
「詰め放題2万円」というチラシ。
これ、業者目線では“きっかけ価格”であり、
実際に利益が出るのは追加項目や大型品の加算後から。
それをどう“自然に納得させるか”が、営業の腕でもある。
■ まとめ:軽トラ1台でも、プロのビジネスは成立している
たかが回収、されど回収。
積み込み・分類・処分・再販までを手がける彼らは、
「動く不用品総合商社」と言っても過言ではない。
というわけで、今回の43,000円。
安くはなかったけれど、業者にとってはしっかり利益が出る価格帯。
でも、「ボッタクリ」とまでは言えない、ある種の“相場内のリアル”。
私たちがゴミだと思って手放す物に、価値を見いだしてさばいていく彼ら。
そこに、ちょっとした商売のロマンも垣間見えたのだった——。
まとめ:安さより、誠実さ。事前見積もりは絶対。

「軽トラ詰め放題2万円」と書いてあったチラシから始まった今回の回収劇。
最終的に支払ったのは4万3千円だったけれど、予想外の怒りや後悔は意外となかった。
それは、作業が丁寧だったこと、押し売りがなかったこと、
そしてなにより「現場での事前見積もりで、判断する時間をくれた」からだと思う。
不用品回収は、金額もサービス内容も業者によってまちまち。
“価格”だけを見て飛びつくと、思わぬ追加料金でがっかりすることもある。
でも逆に、誠実な業者と出会えれば、手間もストレスも一気に解消されるのもまた事実。
【今回の教訓】
- チラシの“ぽっきり価格”は、きっかけ価格だと思っておこう
- 「事前見積もり」は絶対!説明があるか、断れる雰囲気があるかチェック
- どうしても不安なもの(パソコンや書類)は、専門業者や自治体のサービスも検討を
「捨てたい!」って思う瞬間はあるのに、実際に動くまでは、ずっと面倒なまま。
だからこそ、安心してお任せできる相手を見つけておくのは、
大人の断捨離術なのかもしれません。